概要

同分科会では「大学における教育活動/近年の研究と実践」について,両大学の教員が報告した。報告の後には,両大学の教員はそれぞれの大学の教育活動の特徴や,日本と韓国の学生相談における大学生の悩みの時代的変遷について話し合った。

分科会は,参加者の簡単な自己紹介(約10分),京都大学側の報告(豊原響子,田中康裕が日本語で報告,約25分),ソウル大学側の報告(SHIN, Yun-Jeongが英語で報告,約25分),そして参加者のコメント・議論(約30分),という順序で行われた。

分科会の内容

2.1. 京都大学側の報告「京都大学臨床心理学教室の教育活動/京都大学の研究と実践」について

京都大学側は,初めに京都大学臨床心理学教室の教育活動について報告した。京都大学臨床心理学教室では心理療法を実践するための講義,実習,演習,研究を行っている。また,1954年に開設された大学附属の心理教育相談室は地域に開かれており,そこでは市民の方を対象に大学院生が心理学的援助を行っている。

次に京都大学における近年の研究について報告した。現代日本では発達障害や解離性障害など,従来の力動的心理療法が前提としていた西洋近代の意識,人格,社会性が想定できない事例が増加していると考えられている。そもそも心理療法はその社会や時代の文脈の中で出てきた障害に対応しており,メンタリティは地域や時代によって異なる。この前提に立ち,従来的な主体が想定できないクライエントへの心理療法の形,イメージ療法の有効性,個性化・自己実現の多様性について研究を進めている。

2.2 ソウル大学側の報告「ソウル大学の教育活動/ソウル大学の研究と実践」について

ソウル大学側は,初めにソウル大学教育学部学生相談専攻の教育活動について報告した。ソウル大学では心理学部と教育学部が分かれており,教育相談専攻は教育学部で行われている。教育活動では,社会的・国際的に妥当な研究と,あらゆる年齢や環境の人々を対象に効果的にカウンセリングとを実践できる,科学者―実践者を両立した人材の育成に努めている。

次にソウル大学の教員の研究分野について報告した。教員ごとに研究している内容は異なるが,どの教員も伝統的な治療技法の発展と,個人の幸福やレジリエンスの向上を目指している。

最後に,ソウル大学におけるカウンセリング実践について報告した。カウンセリングの実践としては大学内に設置されている学生相談室におけるカウンセリングを行っている。また,最近では,梨泰院の路地で発生した事故に対する危機介入を行った。

コメント・議論

まず,京都大学側の報告におけるコメント・議論から行われた。京都大学臨床心理学教室ではどのようにしてカウンセリングの実践訓練を行っているかについて,ソウル大学側から質問が出た。この質問に対して京都大学側は,個人の心理療法の訓練は大学附属の心理教育相談室で行っているが,事例の個別的なアドバイスは,学生が教育的評価とは別に次元から心理療法のトレーニングに集中するために,大学外部の心理療法家に依頼している,と答えた。

次に,ソウル大学側の報告におけるコメント・議論が行われた。韓国で学生相談を実践するうえで,時代ごとに学生の悩みがどのように変化しているかについて,京都大学側から質問が出た。この質問に対してソウル大学側は,30年前には民主化運動が行われており,自分の信念を社会に公言するかどうかという社会的な悩みが主であった一方,近年の学生は自分の進路などの個人的な悩みが主となっていると答えた。

おわりに

以上のように,交流会では各大学の教育活動と,カウンセリングや心理療法におけるクライエントの変化について有意義な議論を行った。(文責:鍵本源)