支援モデル1では、「発達」をキーワードに、親子関係、心と社会の関係から、教育文化を探究していきます。
事業内容
支援モデル1では、世代間関係と発達を土台とした日本型の母子関係をテーマに研究を進めている。メンバーは、それぞれ異なる研究テーマや理論的なオリエンテーションを持っており、今後はお互いの研究を援用する形で研究を進め、最終的にはそれぞれの研究テーマを土台にし、海外に発信可能な理論を創造していく。
個々の研究テーマは以下のとおり。
楠見孝先生の研究は多岐にわたるが、一例として懐かしさや愛などの言葉が様々な概念とどのように関連しているという研究等を行ってきた。特に懐かしさという体験については、小さい頃密接に接したものに、その後の空白期間を経て再び接することで体験されるという説(空白期間説)を提唱する。楠見先生はその観点から母子関係を考えているが、基礎資料としては山口勧(2003) 甘え(山口勧 (編) 社会心理学:アジアからのアプローチ. 東京大学出版会)等を挙げる。
明和政子先生は、ヒトの脳と心の発達とその生物学的基盤を、比較発達科学のアプローチから明らかにしようとしている。従来の西洋の中流階級の観察に基づくボウルビー等の愛着理論に代わり、新たな視点から日本特有の愛着機能を見直すことは出来ないかについて、特に生物学的な視点から模索する。キーワードとしては愛着、身体接触、embodimentなどをあげ、また基礎資料としては日本の霊長類学の草分け期の雰囲気を伝える意味で、今西錦司の「人間性の進化」(今西錦司(編)「人間」 毎日新聞社.1952)などを取り上げる予定である。
高橋靖恵先生は家族心理や家族力動のアセスメント、とりわけ精神分析の対象関係論を専門とする。その立場から先生は分析家Wilfred Bionの理論や、昨年度の本研究科の客員教授Rudi Vermote 氏との意見交換を通し、同氏も関心を示した西田哲学の視座から母子関係を捉えなおすことを考えている。なお研究のための基礎資料としては、国際的に名高いわが国の精神分析家北山修の「見るなの禁止」(1993年、岩崎学術出版社)等を挙げる。
梅村高太郎先生はこれまで思春期のクライエントへの心理療法を専門とする傍ら、家屋画や室内画などの投影描画法を用いる研究に携わってきた。その中で、心身症を患う人々がもつ境界の緩さ、自他の区別の薄さが描画に現れることを見出してきたが、それが日本の家族の在り方とどのような関連を持つかについて考える。梅村先生は、西洋との対照から日本的な家族関係のありようを描き出している河合隼雄の著作(河合隼雄(1980)『家族関係を考える』第2章「個人・家・社会」)等を基礎資料として提示する。
最後に岡野憲一朗先生は甘えの概念をベースにして考える。日本においては依存は必ずしもネガティブなものではなく、健全な相互依存は個の独立と同様重要と考える。そしてそれは如実に日本的な母子関係の在り方に及んでいると考える。基礎資料としては土居健郎の「甘えの構造」(1973年、弘文堂)を挙げる。