ダイバシティ時代の「日本型教育」の行方 

要旨

過去二年間、京都大学大学院教育学研究科グローバル教育展開オフィスでは、「日本型教育」に焦点を当てて、国内外の研究者をお招きしてウェビナーシリーズを企画してきた。2020年度は『越境する日本型教育:歴史的・多角的理解に向けて』というテーマのもと、過去100年間に日本から海を渡った教育実践を検証することで、今日の日本型教育の海外展開を大きな歴史的文脈に位置付けることを試みた。2021年度の『「日本型教育」を再考する:東アジアとの対話を通じて』では、東アジアの教育研究者の視線を通じて、英米との対比からのみ語られがちであった「日本型教育」の特徴を東アジアとの対比から浮かび上がらせた。どちらのウェビナーシリーズにおいても、「過去」や「東アジア」を一つの参照点として、そこから「日本型」を見つめ直す―相対化する―ことを目的としていた。 

2022年度ウェビナーシリーズ『ダイバシティ時代の「日本型教育」の行方』においても、「日本型」を相対化する作業を継続する。今回の参照点は、「日本型教育」とは様々な形で亀裂や矛盾を経験している人々、すなわち国内の「ダイバシティ」の存在である。今日、海外からの関心に応える形で、日本型教育を積極的に海外展開しようとする動きがあるが、こうした場合、その優れた側面のみが前景化される傾向がある。だが、国内議論に目を向けると、とりわけ、LBGTQ、ジェンダー、民族、言語、障がいとったダイバシティへの対応という点において多くの課題が指摘されている。日本型教育は、その全人教育的性格が特徴であり、規範意識や協調性を育むと国際的にも評価されている。だが学校教育を通じた均質共同体への帰属意識の形成は、同時にこどもたちの多様性を抑圧する同調圧力にも転化する。事実、「差異」に特徴づけられた子どもたちが、日本の学校教育の「壁」に直面していることは、多くの研究によって明らかにされている。 

こうした他者化された存在の経験を通じて日本型教育を眺めるとき、どのような特徴と課題が浮かび上がるのだろうか。そもそも日本型教育の「強み」とされるものを活かしつつ、多様な子どもたちの存在を肯定する教育は可能なのだろうか。また、英米圏の多文化教育の実践とは異なる、日本の文脈に即した「日本型」ダイバシティ教育の理論と実践があるとすれば、それはどのようなものなのだろうか。『ダイバシティ時代の「日本型教育」の行方』では、国内外の研究者や実務家をお招きして、これら一連の問いへの考察を深める契機としたい。 

京都大学大学院教育学研究科グローバル教育展開オフィス室長
高山敬太
 

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